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  2015年度第6回アキバテクノクラブオープンセミナーを開催しました
               


まち歩き

2015/12/3 
2015年度第6回アキバテクノクラブオープンセミナー
       
 
案内役:鈴木 俊治 氏 
     /有限会社ハーツ環境デザイン代表 
テーマ: 『粋なまち神楽坂を歩く』   

講師:宇田川 悟 氏
   /『最後の晩餐:死ぬまえに食べておきたいものは?』    著者
テーマ:『食文化から見たまちづくり』

    
■ 情緒豊かな神楽坂の魅力を後世まで
 

 2015度第6回目のオープンセミナーは、都市計画がご専門で、NPO粋なまちづくり倶楽部・神楽坂の副理事長でもある鈴木俊治氏をガイド役に神楽坂のまち歩きを堪能した後、パリでの生活も長い作家の宇田川悟氏より、フランスの食文化とまちづくりについてお話いただく、2本立ての構成となりました。

 約15名の参加者は、江戸中期より神楽坂の中心として親しまれ、縁日でも賑わってきた毘沙門天(善国寺)に集合し、15時過ぎよりまち歩きがスタートしました。

 はじめに、神楽坂通りを北西方面に進み、神楽坂上交差点へ。道路幅員18mから30mへと、大久保通りの拡幅による街の分断が危惧される中、せめて歩道幅を広くすることで、分断を軽減することも地域で話し合われているようです。

 表通りから裏道に入ると、地形に沿った屈曲を伴うヒューマンスケールの歩行空間へ。神楽坂では、比較的起伏が大きいため区画整理はほとんど行われず、大規模開発が抑制されてきたようです。沿道には、チョコレート屋さん、チーズ屋さん、日本料理屋さん等、魅力的な佇まいのお店が点在しています。

 裏道を抜け、境内広場も気持ちのよい赤城神社へ。中世を起源とするこの古い神社も、建築家の隈研吾氏によるデザインで現代的意匠を伴い、6年前に建替えられました。神楽坂で最も高い場所に立地する神社からは、主に北西に開けた見晴らしのよい景色を楽しめます。

 再び神楽坂通りに戻り、飯田橋駅方面へ。このあたりも都市計画道路に指定されており、沿道は低層に抑えられています。

 神楽坂上交差点を過ぎ、高層マンションが隣接して聳え立つ行元寺跡の寺内公園へ。問題の高層マンションは、区道の付け替えにより高層建築が可能になったこともあり、建築訴訟は最高裁判所まで進み、これが教訓ともなって、神楽坂の地区計画につながったとのことです。

 階段も伴った、神楽坂ならではの石畳の路地を歩んでゆくと、数々の作家に愛されてきた旅館「和可菜」や、料亭「幸本」のある兵庫横丁へ。花街風情を残す情緒豊かな空間です。

 神楽坂通りと平行する軽子坂は、江戸時代、外堀の神楽河岸からの荷物を運ぶ物流の通りだったとのこと。沿道には、天空率制度の導入で成り立ってしまった、景観上問題となっているのっぽビルも。

 かくれんぼ横丁も、黒塀や石畳が特色となり、神楽坂ならではの風情を残す路地空間。和室でフレンチを楽しめるレストラン「かみくら」もひっそり佇んでいます。しかし、ここにも、情緒豊かな風情を壊す中層のレストラン・コンプレックスビルが。

 仲通りを経て、神楽坂通りを跨ぎ、東京理科大学の裏手界隈に入ると、アグネスホテルの建つフレンチ空間へ。人気のケーキ屋さん「le coin vert」も素敵な佇まいです。階段路地を進んで銭湯の熱海湯を過ぎ、八百屋も店を構える生活路地を抜けてから再び神楽坂通りに戻り、まち歩きの終着点となる講演会会場のPORTA神楽坂に到着です。皆様お疲れ様でした。


(写真をクリックいただくとまち歩きの様子がご覧いただけます)

講演会

■  神楽坂はどうしてフランス人に人気なのだろう?
 
 オープンセミナーの後半は、約20年のパリ生活を経験されてきた作家の宇田川悟氏による講演会。フランスの食文化を中心に、フランス人気質についてお伝えいただくと共に、神楽坂の街並みがフランス人に人気がある理由についても教えていただきました。

 まずは、日本人がフランスのレストランで嫌われる3大行為について。それは、料理を取り分けること、写真を撮ること、ワインのラベルを剥がして持ち帰ること、だそうです。小皿に分けてサーブされるフレンチコースの食文化が確立して以来、シェフたちは小皿を単位に全ての世界観を表現しているので、これを壊すような行為は失礼にあたる上、写真撮影やラベルはがしも、レストラン内に漂う美しい空気感を壊す、非常識な行為に映るようです。

 次に日本人の食通なら誰でもご存知のミシュランについて。これまでミシュランは、フランスをはじめとする食文化に係る評価の世界で確固たる地位を築いてきたものの、2005年頃からその評価方針が変わり、レストランの「料理」に重点が置かれるようになると共に、儲け重視のビジネス文化も反映されるようになってきたとのこと。また、日本でのミシュランによるレストランの評価にあたり、果たして、明晰・簡潔・エレガンスを3大美意識とするフランス人が、情緒的な日本の価値観を正当に評価できるか、疑問に感じているとのことです。

 更に、フランスの階級社会について。ミシュランの星付レストランは、専ら上流階級のための空間で、一般のフランス人はまず行くこともなく、日常の話題にも上らないとのこと。フランスは横社会で、他の階級社会については一般に無関心のようです。これと対極にあるのが、世俗の象徴となっているカフェ文化。聖なる象徴である教会とともに、フランス社会になくてはならない要素となっているとのこと。男女が愛を確かめ合えるような、暗がりの空間も包含するフランスのカフェも、近年は若者の家食文化が広がり、フランス人の二人に一人は、あまりカフェに足を運ばないようになってきているようです。

 話は一転して、宇田川氏が15年にわたる定住生活をされてきた神楽坂へ。東京に7箇所あった花柳界の伝統や粋を残す街並みのなかでも、学生と芸者が街中ですれ違うようなシーンが成り立つ街は、神楽坂だけのようです。かつて、島崎藤村や永井荷風などの文豪が住みつくなど、多様な文化を包含し、ヒューマンスケールな路地空間が魅力の神楽坂は、谷崎潤一郎の「陰影礼讃」に描かれる暗闇の美意識に惹かれることの多いフランス人にとっても、魅惑的な街のようです。ブールバールやアベニュー等の大通りと、裏通りとのコントラストが魅力となっているフランスの都市空間とも通ずるものがあるのでしょう。

 また、ヒューマニズム思想に彩られたパリの都市空間では、裏道に至るまで歩道ネットワークが整備され、散歩を愛するフランス人の価値観を反映しているとのこと。散歩文化がまだ血肉化していないように見受けられる日本人にとっても、神楽坂の街並みは、ついつい散歩したくなる魅力空間。フランス人にも愛される秘密は、このあたりにもありそうです。

 更に、花柳界の衰退で元気がなくなってきていた神楽坂も、宇田川氏も関与された倉本聰氏の脚本による神楽坂を舞台とするテレビドラマ、「拝啓、父上様」を契機に、また人気が復活してきたとのこと。ただ、突如高層マンションが建設されるなど、民主意識が強い上に国家の統制力も強いフランスではまずあり得ないようなことが、神楽坂の魅力を大きく損なっていることなど、神楽坂を深く愛する宇田川氏の危惧は、講演会の最後として、「型」のあるフランス人が「型破り」をして革命につなげる一方で、現代の日本人は、「型無し」であることにも及びました。

 引き続き、宇田川氏の数々の著書の紹介と、サインを求める参加者の行列で賑わうと共に、神楽坂名物となっている「五十番」の肉まんとビールで、フランス文化の華でもある「社交」の時間へ。まちづくりや文学の話題で、大いに盛り上がりました。


(写真をクリックいただくご講演の様子がご覧いただけます)

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