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  第7回 人間総合科学大学人間科学部
       健康栄養学科教授 熊谷修氏            


第7回産学連携レポートは、「老化を遅らせる食生活の指針」を提唱され、高齢社会の栄養施策に深く関わっていらっしゃる、人間総合科学大学人間科学部健康栄養学科の熊谷修教授にお話を伺いました。

■先生が提唱される「老化を遅らせる食生活」とはどのようなものですか

高齢者にとっての健康とは、「自立した生活を営む能力」であるとするのが、現在の世界的な潮流です。国内外の研究により、「老化そのもの」が生活機能障害や疾病のリスクファクターであることが明らかになっています。ですから、「メタボ対策」=脳卒中・心臓病・生活習慣病という特定の病気から体を守ることが最良の健康対策とする最近の風潮にありますが、正しくは「いかにして老化を遅らせるか」が、超高齢化社会に符合した最良の健康対策ということになります。
 以前は「年をとったら粗食がよい」と考えるのが一般的でした。ところが、肉や乳製品、油脂類をとるようになって、日本人の平均寿命は急速に伸びているのです。
 私は、「観察研究」と「介入研究」によって「老化を遅らせる食生活の指針」を提唱しております。健康施策においてはこの2つの研究が大切です。「観察研究」とは、食生活に関して健康に良いと思われる事象(=状況証拠)を発見・収集することです。自治体等との協力のもとまず長期に亘る「観察研究」を行い、次に「介入研究」によってその状況証拠について、実践可能性、有効性、安全性を検証しました。
 これらの研究により、肉・卵・牛乳・油脂類をよく食べるという適度に欧米化した多様性に富んだ食生活が老化を遅らせるということが判明したため、「低栄養予防の食生活指針」として、高齢者もタンパク源に肉類を取る必要があることや、多様な食品を欠食せずに摂取することを提唱しております。




■先生の研究と産学連携のあり方、秋葉原ダイビルとの関係はいかがでしょうか

 人間総合科学大学は秋葉原ダイビルにおいて、社会人向けの教育を実施しております。私も「高齢者の健康増進」をテーマとして講師をしております。また、同ビルには情報発信を行うためのコンベンションホールなども整えられており、都心の駅前という点において情報発信効果は高いと思います。もっとも、「オヤノコトエキスポ」2009/7/4〜7/5/東京国際フォーラム をはじめ全国各地で講演を行っているので体力的に大変ですが(笑)
産学連携に関してですが、大学は「産学連携」を推進しないと生き残ることができないと考えます。研究資金を得るため以外にも活動の幅を広げることにつながると考えます。
人間総合科学大学としては産学連携の一環として、企業へのコンサルティングも行っております。具体的にはシニアマーケットに非常に注目しており、私の研究と同じく、老化を遅らせる方法や、老化へのリスクを高める指標(たとえば、趣味の時間が減る、転んでしばらく行動に制限のある生活を送ると老化の進み具合が早まるなど)に注目している企業や学者などから問い合わせが多くあります。「老化に対しては、疾病に対応するようなやり方ではうまくいかない。老化は薬剤では対応できない」という認識を多くの企業が持つようになりました。
また自治体に対する健康施策に関する委員会の委員として提言を行ったり、高齢者に対する配食サービスを実施しているNPO団体へのアドバイス等も実施しております。目先の利益だけでない、社会貢献型の仕事をしたいという日本企業もあります。その企業とは「知的能動性」と食の関連性を深く掘り下げる共同研究を行っています。




■「知的能動性」と食の多様性との関係について教えて下さい

 「知的能動性」とは、簡単に言えば人の魅力・人間味をかもしだすものです。
肉・油脂類をとる人は老化を遅らせることができると述べましたが、肉類・油脂類を含めた多様な食品を摂取する高齢者は、余暇や交流などを楽しむ「知的能動性」が低下しにくいことが調査で分かりました。
 食品を多様に食べる人は知的能動性が高く、逆に言えば、知的能動性が高いからこそ食への関心も高く、調理を工夫したり外食もするなど積極的な行動を行い、その結果多様な食品を摂取することにつながっています。加えて、知的刺激がその人の品位を磨くものであると言えるでしょう。
最近、地域密着の「雑貨屋・小売店」が減ってきました。少し前まではどの町にも歩いていける範囲に地域密着の雑貨屋があり、高齢者が一人で好きなものを買ったり、近所の人と雑談できたものです。最近は郊外型の大型スーパーの出現で地元密着型の小型店は減り、それとともに高齢者が自分で購買行動をする機会も減っています。結果、様々な食材を摂ることが難しくなっており、多くの自治体で健康施策上問題となっております。
 「知的能動性」は年を経ると落ちてきますが、これを維持することで老化を遅らせることができます。食の改善のみで知的能動性が高くなるというものではありませんが、知的能動性の高い人は、まず多様な食生活を送っており、老化も遅いといえます。



■取材を終えて

 熊谷先生による「高齢者の老化を遅らせる食生活」の研究で得られた成果は、いまや高齢者の栄養施策のスタンダードであり、シニアマーケットに注目する産業界との連携でますますその研究は深められていくと思いました。
 年をとっても元気で人間的魅力にあふれる高齢者でありたい。そのためには、今からでも多様性のある食生活、趣味や余暇を楽しむ生活を大事にしたいものです。
 とかく日本人は、○○という食品が良い。△△を食べることによって健康になるという情報が好きな傾向にあります。熊谷先生によるとその原因は、そのような情報を流すメディアの他、ある食材の効用を研究しているからといってその効用を必要以上に強調する研究者、教科書に載っていることを疑いもせずに発信する教育者にもあるとのことです。健康科学の領域については「観察研究」と「介入研究」によって判明した正しい情報を広く発信すべきだとの発言が印象的でした。
 まさにそれを実践されている熊谷先生、長時間にわたり楽しいお話をありがとうございました。


取材写真


【取材日:2009年7月16日(木)】

@人間総合科学大学

【写真】
人間総合科学大学健康栄養学科 熊谷修教授  

(写真をクリックいただくと取材の様子がご覧いただけます)

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